ブログ布留川のほとりから

南蛮屏風とその魅力

2020年11月26日 (木)

創立90周年特別展「大航海時代へ―マルコ・ポーロが開いた世界―」では、天理図書館が所蔵する「南蛮屏風」を展示しています。江戸時代初め頃に制作されたと考えられる魅力的な屏風絵で、今回の特別展の目玉展示の一つとなっています。

戦国時代から江戸時代にかけて、ポルトガル人やスペイン人などのヨーロッパ人が数多く日本に訪れるようになります。彼らは、今の世界地図をみると日本の遙か西方から訪れた人々ということになりますが、インドや東南アジアなどの南方を経由して日本に来訪したことから、南方から来た外国人ということで当時の日本では「南蛮人」と呼ばれていました。

「南蛮屏風」は、そういった日本に渡来したヨーロッパ人との交流を描く屏風絵なのです。南蛮屏風は数十点程度の作品が世に知られており、天理図書館本も著名な作品の一つとなっています。現在、六曲一双(六曲屏風が左右で対になるもの)の屏風のうちの左隻を展示しています(右隻の展示は1123日まで)。

南蛮屏風にはさまざまな構図が存在しますが、本屏風は左隻に南蛮船の入航と荷揚げの様子が、右隻には南蛮人の行列と市中の情景が描かれており、南蛮屏風における定型的な構図をとっていると言えます。描かれる人物は三百人以上に上っており、様々な人種、国籍の人々が多彩な出で立ちで躍動的に描かれており、豊かな人物表現はこの屏風絵の見所となっています。宣教師や修道士についてもバリエーションに富んでおり、イエズス会、アウグスチノ会、フランシスコ会、ドミニコ会の4会派の会士を確認することができることも特色といえます。

画中の人物を改めて見てみると、描かれる日本人も様々な服装で描かれていることがわかります。江戸時代初期の風俗画として見ても、大変興味深いものとなっています。例えば、右隻の右側には、襞襟(ひだえり)と呼ばれるフリル状の独特な襟仕立ての衣服を身につけた日本人が描かれています。当時のヨーロッパの王侯貴族や裕福な市民階級の間で流行したもので、最新のファッションとして間を置かずに日本にも伝えられていたことがわかります。いわゆる南蛮装束の一つとして、日本でも大いに流行したようです。

他にも、この屏風には当時流行した新しい文化が描きこまれています。例えば右隻の右上部にはキセルを使って喫煙する人物がおり、同じく右隻の中程には三味線を手にした人物も描かれています。タバコや三味線は、16世紀後半に日本に南蛮交易や琉球交易の結果もたらされたといわれるもので、当時の最新の流行文化としてこの屏風に描かれたものなのでしょう。

左隻の右端には、屋根の上に天使像が描かれた南蛮寺(キリスト教の教会施設。キリシタン寺ともいう)が描かれています。この当時のキリスト教会は、南蛮風の建築ではなく純粋な日本建築であったことが知られており、この屏風に描かれた南蛮寺もお寺のような姿をしています。この時代の南蛮文化と日本文化の融合のあり方を垣間見ることができます。

南蛮屏風は当時の日本人とヨーロッパを初めとする外国人との交流とその結果生まれた新しい文化を表現したものであるため、描かれる内容は非常に豊かで興味深いものとなっています。そういった観点で詳しく見てみると新たな発見があるかも知れませんね。この機会に是非ご覧いただければと思います。

 

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