天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化鐙型注口壺(あぶみがたちゅうこうつぼ)

ペルー 北海岸 前12世紀~前9世紀頃
高26.7cm 土 やきもの
資料番号:26511

展示中 1-0

紀元前1200年頃から紀元前800年頃までの形成期中期と呼ばれる時期につくられた鐙型注口壺です。注口部の形態が馬具の鐙に似ていることからこのように呼ばれる、ペルー北海岸の代表的な器形です。この鐙形注口壺はトウモロコシの醸造酒である“チチャ”を入れる容器であったとも考えられています。チチャが儀礼に欠かせないお酒であったことを考慮すると儀礼的な要素が強いものと言えるでしょう。
胴部はサン・ペドロと推定される2本のサボテンと1匹のネコ科動物を象っています。このネコ科動物は体躯全体に二重円の紋様が施されていることから、ジャガーであると考えられます。そして、両者は当時の宗教儀礼にとって欠かせない要素です。
サン・ペドロからはアルカロイドであるメスカリンが抽出され、現在でもペルーの呪術師が幻覚剤として利用しています。形成期後期(前800年頃~前250年頃)を代表するチャビン・デ・ワンタル遺跡では、幻覚剤を用いた宗教儀礼が行われていたことで有名です。チャビン宗教イデオロギーの重要な特徴として、神官が超自然的な力を得るためにジャガーに変態することが挙げられますが、その変態を引き起こすために用いられたのが幻覚剤です。この場合に用いられたのは幻覚作用が非常に強い熱帯性の種子だったようですが、遺跡内の広場の石彫に擬人化された人物とともにサン・ペドロが表現されていることから、儀礼との密接なかかわりがうかがえます。
本例は、上述した儀礼が形成期中期から行われていたことを示唆する興味深い資料と言えます。