天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の考古美術桂樹月兎八稜鏡(けいじゅげっとはちりょうきょう)

 

 

中国 唐 8世紀
径21.5cm 青銅
資料番号:中1178

展示中 3-16

月宮鏡(げっきゅうきょう)とも呼ばれる唐時代(8世紀)の鏡で、鏡背には中央に一本の桂樹が、樹の左右には飛雲に乗った仙女と臼を搗(つ)く白兎、そして木の根元には蟾蜍(せんじょ。ヒキガエル)が表されています。古代中国でも月には白兎が棲んでいると信じられており、日本と異なるのはその兎が搗いているのが餅ではなく不老長生の仙薬であるということです。資料の兎も、手杵を持つ姿で表されています。飛雲に乗った仙女の名は嫦娥(じょうが)といい、英雄神・羿(げい)の妻であったとされる女性です。伝説では、あるとき羿が西王母(せいおうぼ)から不死薬を譲り受けたが、嫦娥はそれを盗んで月に逃げたといわれます。ゆえに嫦娥は月の女神でもあります。また彼女は蟾蜍の姿となったとも語られます。
中央に描かれた桂の木も中国の月伝説に深い関連があります。古代中国では、月には桂の巨木が生えていると考えられていました。『酉陽雑俎(ようゆうざっそ)』によればその高さは五百丈にもなるとされ、この鏡では表されていませんがこの桂の木を伐り続ける呉剛という人物のことが記されています。彼は仙術を学んでいたが罪を犯し、罰として孤独で寒い月世界で傷つけてもすぐ治ってしまう桂樹を永遠に伐り続けているとされています。これらの説話からわかるように、月は不老不死や神仙と関わりが深い場所なのです。
この鏡には、古代中国の人々が抱いていた不思議な月世界のイメージが垣間見られるのです。