ブログ布留川のほとりから

東方見聞録とその影響

2020年11月20日 (金)

ヴェネツィアのマルコ・ポーロは父親らに連れられ東方に旅し、17年間ほど元王朝の皇帝フビライに仕えます。東洋から帰国したマルコはジェノヴァとの戦争に身を投じ、捕虜となります。そこで同じく捕虜であった物語作家ルスティケッロと出会います。マルコは東洋の出来事をルスティケッロに語り、ルスティケッロはそれを書き記しました。それが『東方見聞録』なのです。

『東方見聞録』の話は当時としては珍しすぎて、奇怪なことを記した幻想文学くらいにしか思われていませんでした。実際、話をいろんなところで盛っています。マルコに伝わった段階ですでに盛られていた話だったと思いますが、マルコも見てきたことのようにすべてを語るところがあります。さらにルスティケッロはそもそも物語作家なので盛るのが大好きと言えます。物語としておもしろく脚色をつけたとしてもなんら不思議ではありません。

ところが時代が下り、ルネサンス期にはいると、ルネサンスを牽引していた人文主義者たちによって、そこに記されている中には真実があることが知られるようになります。そうしますとたちまち妄想が妄想を呼び、巨大で豊かなカタイ(中国)と黄金の国ジパングは膨らんでゆきます。奇怪な物語風旅行記であったものが、冒険者たちを掻き立てる富の情報が満載されたガイドブックへと変身します。彼らを大海原に向かわせたのは、ヨーロッパ人が喉から手が出るほど欲しかったスパイスと、この『東方見聞録』だったのです。

しかし正確な地図などもちろんありませんでした。あるかどうかも分からないところへ行こうとするのですから、その無謀さはお分かりかと思います。それでも間違った地図とあてにならない情報を頼りに、大海原を渡るなんてすごいと思いませんか。大変勇気のいることです。どんな困難な状況にあっても、むしろそういう時にこそ夢と冒険は必要なのです。実はこれが本展覧会のテーマでもあります。

 

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考古美術室 T 

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