天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化こけし(土湯系)(こけし つちゆけい)

kokeshitsuchiyu

kokeshitsuchiyu

福島 昭和(戦前)
全高25.0cm(左)
資料番号:68.1425、68.1426、68.1427

展示中 1-0

東北地方の代表的な郷土玩具といえば「こけし」がまず思い浮かぶのではないでしょうか。丸い頭に円柱の胴という至ってシンプルな形状ですが、見る人の心をなごませる優しい力を秘めています。宗教的な祭祀具に由来するのではないかという考えもありますが、江戸時代末頃までしか存在を遡ることができないため、木地師(きじし)が東北地方に数多い湯治場のみやげものに作ったとする説が現在は有力です。
こけしは一見すると同じように見えるかもしれませんが、東北六県に分布する産地ごとに形態や描彩に伝統的な約束事があり、それぞれ個性的です。産地の師弟間で伝承された特徴を受け継いだものを“伝統こけしの系統”と称します。身近なこけしをご覧ください。胴に華やかな模様が描かれていますか?それともボーダーラインのようなろくろ線でしょうか?胴が細くて頭が大きく、安定感に欠けて倒れそうでしょうか?美しくくびれたウェストラインのこけしでしょうか?一番最初に挙げたのは、系統で言うと遠刈田(とおがった)系(宮城県・遠刈田温泉)、横縞模様が特徴的な土湯系(福島県・土湯温泉)、安定感を欠くのは山形系(山形県・山形市)、ナイスボディで見栄えがするのは鳴子系(宮城県・鳴子温泉)です。他に弥治郎系(宮城県)や木地山系(秋田県)など11の系統があります。
掲出は土湯系の阿部治助(1885-1952)の作品です。土湯系は、ややエンタシスな形の胴に赤色黒色のろくろ線と、ベレー帽をかぶったような頭頂部の蛇の目模様が特徴です。熱心な天理教信者で職人気質だったという治助。こけしは少女を現しますが、治助のこけしは“おぼこい”というより思いつめたような厳しい表情をしています。現在もこけし愛好家の間で人気が高い名工自身の探求心を具現しているかのようです。
2016年、東日本大震災から五年が経ちます。豊かな森林資源や海の恵みを活かして、優れた文化を遙か太古から育んできた東北地方。この美しい地域の一日も早い復旧、復興の願いを込め、秋に東北地方の郷土玩具をテーマに企画展を開催いたします。それにちなみ、8月以降さまざまな東北地方の郷土玩具をご紹介いたします。