天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化参宮急行電鉄沿線名所図絵(さんぐうきゅうこうでんてつえんせんめいしょずえ)

地域:日本 1931(昭和6)年
縦17.7cm(1枚目)
発行:参宮急行電鉄 制作:吉田初三郎
資料番号:

展示中 1-0

総営業キロが500kmを超える日本最大の私鉄、近畿日本鉄道の路線網は、近畿・東海の2府4県にまたがり、通勤・通学など都市間・地域輸送のみならず、観光地への足を担っています。母体である大阪電気軌道(大軌)は、現在の奈良線である上本町~奈良間を大正3年に開業以降、徐々に路線網を拡げていきますが、その重要な手段となったのが他鉄道会社の買収・合併でした。
悲願であった伊勢方面への進出のため、既に桜井~名張間の鉄道敷設免許を取得していた大和鉄道(現田原本線)の株式を取得して傘下に編入し、大和鉄道を通じてその先の名張~山田間免許も取得しました。敷設工事及び運営は昭和2年に設立した子会社の参宮急行電鉄(参急)に委ねられ、昭和5年12月にほぼ全線を開業、昭和6年3月には山田~宇治山田も運輸営業を開始しました。
本図は参急開業直後に、路線利用促進・観光地周知のため、大正の広重と言われた鳥瞰図絵師吉田初三郎に依頼しその工房で制作されたもので、右端の、直通運転を行う大軌の大阪上本町から、左側の宇治山田までの本線を太い赤線で示しています。参急中川(現伊勢中川)~津新町間が開通しているため昭和6年7月4日以降に発行されたものと考えられます。参急本線以外では、奈良・大阪の大軌路線、奈良電気鉄道(現近鉄京都線)、伊賀線(現伊賀鉄道、参急が委託運行)が赤線で、計画線が赤点線で表示されています。その他の鉄道では国鉄は細い黒線で、私鉄では大軌傘下の中勢鉄道(岩田橋~川口間)と大阪鉄道がそれぞれ細い赤線・細二重線でわずかに表示されているのみで、競合私鉄の記載は一切ありません。大阪上本町や宇治山田をはじめ、主要駅は黒地に白字で大きく表示され、沿線観光地の見所である室生寺、赤目四十八滝、香落渓(かおちだに)等は赤地に黒字、伊勢神宮内宮・外宮は茶地に黒字で大きく表示しています。
全体的には、初三郎パノラマ地図の特徴であるデフォルメが施されていて、沿線の観光地や主要都市を大きく印象的に描くとともに、左右両端をUの字に曲げ、さらにその先に遠景を描いています。左は鳥羽、賢島を、右は神戸から下関、そしてなんと釜山まで記載しています。横長の画面を余すところなく活用し、美しいだけではなく見ていてとても楽しい気分にさせてくれます。