天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化板製人形芝居の人形―羅刹“ラーヴァナ”(いたせいにんぎょうしばいのにんぎょう―らせつ“ラーヴァナ”)

インドネシア ジャワ島
推/20世紀前半
高51.0㎝ 木製
資料番号:00582

展示中 1-0

本例は板製人形芝居「ワヤン・クリティック」で用いられるラーヴァナという名の羅刹(鬼神)の人形で、厚さ数ミリの柔らかい板でつくられています。ラーヴァナは、古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』に、主人公ラーマ王子の妃シーターを誘拐するキャラクターとして登場します。
『ラーマーヤナ』ではラーヴァナが誕生する題目も演じられます。
ランカー王国のラクササ王スマリの娘として生まれた絶世の美女スケシのもとには諸国の王や武将から結婚が申し込まれ、スマリ王の一族と戦う婿取り競技が行われていました。彼女との結婚を熱望するロカパラ王国のダナラジャ王は、父である高僧ヴィシュラヴァに思いを打ち明けます。そして、旧友一族との戦いを避けるためヴィシュラヴァはスマリ王に会いに行きます。そこで彼はスケシ王女がサストラ・ジェンドラ・ユニグラントというジャワ神秘思想の意味を解明してくれる人を夫に望んでいることを知り、息子と結婚してくれることを願いその意味を解明します。しかし、このことが宇宙支配の神ブトロ・グルの怒りにふれ、神罰が下された二人は互いに惹かれあうようになります。そして本来は息子のための嫁取りであったにもかかわらず、ヴィシュラヴァはスケシ王女と結婚してしまうのです。このような不義の結婚から、羅刹としてラーヴァナが誕生します。
成長してランカー王国の王となったラーヴァナは、天界地上のへだてなく、常に暴れ回り暴虐の限りをつくします。その根源には決して成就することのない天界の妖精デヴィ・ウィドワティへの狂おしいほどの想いがあります。ラーヴァナがウィドワティを見染めたのはヴィシュヌ(神)の妻ラクシュミーの魂に宿っていたときです。ヴィシュヌはブトロ・グルの命を受けて、ラーヴァナを倒すべく、徳が高く超能力の武芸を治めた人間に入魂します。すると妻ラクシュミーもヴィシュヌを追って、彼が入魂した人間の妻となる女性に入魂します。ラーヴァナを倒すためにその後も幾世代にわたってヴィシュヌとラクシュミーは化身を繰り返します。その結果、欲情を拒み続けられたラーヴァナは、募る想いにさらに天地の間を暴れまわることになります。そして物語は、ラクシュミーの化身であるシーターを誘拐したラーヴァナが、ヴィシュヌの化身であるラーマ王子に倒されてようやく幕を閉じるのです。悪役でありながらも哀れみを誘うキャラクターです。