天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化双鳥紋の太鼓とバチ(そうちょうもんのたいことバチ)

樺太(サハリン)
民族集団名:ニヴフ
20世紀前半
太鼓の最大径55.3㎝ トドの皮、柳
資料番号:62-2255

展示中 1-0

本品は、女性シャーマンが使用した太鼓とバチです。シャーマンとは、神や精霊と交流することによって予言や病気の治療、祭儀などを行う呪術師や宗教的職能者のことです。樺太(サハリン)北東部、およびアムール川河口流域に暮らす民族集団ニヴフには、精霊と人間を媒介するシャーマンが存在しました。彼女たちは、その力で病気治療を行ったり、狩猟・漁猟の成果や、紛失物の行方などを知ることができるなど、社会的に重要な役割を果たしていました。
太鼓は約3cmの厚みがあり、鼓膜にはトド(アシカ科の哺乳類で、大きなものは体長3mに達する)の皮、枠には柳材が使用されています。鼓膜の表面には、ワタリガラスを表現した双鳥紋がデザインされています。樺太(サハリン)において、ワタリガラスはシャーマンの保護霊の一つとされます。なお太鼓の裏面には、紐が十字に張られています。演奏時はこの紐を持って太鼓を支え、鼓面や枠をバチで叩きます。
本品はシャーマンの交霊儀礼に欠かせない楽器で、舞踊の際に打ち鳴らします。演奏前に鼓膜を火であぶり、まず音律の調整を行います。そしてはじめは遅く打ち、徐々に速いリズムに変化していきます。シャーマンは太鼓に合わせて祈りの言葉を歌いますが、太鼓の響きと歌声が一変する場面で神霊が降りてくるとされます。やがてシャーマンがその神霊と交わり、次第に恍惚状態になることによって託宣(神のおつげを伝えること)を行います。