天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化子年用の履物商の引札(ねどしようのはきものしょうのひきふだ)

大分 別府本町
明治33年(1900)もしくは大正元年(1912)
縦25.8cm×横36.9cm
資料番号:2009J563

展示中 2-12

引札(ひきふだ)とは、江戸時代の後期から昭和10年代頃までの長い間、主に商家が自店の広告のために制作し顧客に配布した商業目的の広告印刷物のことです。今日、盛行している広告チラシをはじめ、商店などが配る年賀状やカレンダーはこの引札から派生してきた広告媒体ということができるでしょう。引札は主に商売上の情報を伝えることが主目的ですから、それぞれの商家の業種や営業種目、商品の種類、商品名や自店名、所在地を文字情報として記してあります。また、文字情報に関連する絵柄(イラスト)も入れて目に止まりやすくしたり、簡単な暦(こよみ)、つまりカレンダーや郵便料金表を刷り入れて、すぐにうち捨てられないように実用性を加味したりと、様々な工夫を凝らしています。特に掲出のような年末年始に配布することを意識した明治時代の引札には、正月にふさわしい縁起の良い吉祥招福を寿ぐ絵柄が好んで採用されています。江戸時代から続く伝統的な絵柄のモチーフ(題材)の代表格である宝船や恵比寿大黒七福神が明治に入っても安定した人気を誇っていることは、様々なシチュエーションで絵柄の中にこれらが登場することで分かります。次に人気のあるモチーフのひとつとしては干支に登場する霊的な力を有すると考えられている十二支の獣を上げることができます。鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪にはそれぞれに聖性が認められています。令和2年の干支は庚子かのえね、つまり鼠の年です。掲出はこの子年にちなんで鼠の描かれた引札をご用意しました。明治33年(1900)もしくは、大正元年(1912)の子年用のものと推定され、大黒の持物(じもつ)である小槌と、3匹の鼠が4人の絵師(署名:呉春・芳園・応挙・蘆雪)によって寄り合い書き(合作)のかたちで描出されています。ことに白鼠は大黒の使いであり、大黒柱(店主)を支える番頭ともいわれますし、子だくさんの鼠は子孫繁栄の意味も有しています。この引札からはこうした招福・子孫繁栄・商売繁盛を穏やかに願う明治の暮らしの気運が今に伝わってきます。