天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化おもちゃ絵「しんぱんちんわんぶし」(おもちゃえ しんぱんちんわんぶし)

chinwanbushi

chinwanbushi

明治25年(1892)
大判一枚 歌川国利
資料番号:95.0051

展示中 1-0

「おもちゃ絵」と呼ばれる、子どもが楽しむ浮世絵版画のなかに、かるたのように言葉遊び歌の歌詞をイラストと一緒に描いた「ちんわんぶし」があります。「ちんわんぶし」は、江戸時代末期から明治時代にかけて流行した童謡の代表作だったようです。ほんの150年ばかり前に流行ったものを“だったようです”と述べるのは無責任ですが、その全貌は不明です。流行歌の宿命か、今では節回しもわからず、全編正確に歌える人は皆無ではないでしょうか。ただ、おもちゃ絵に歌詞は遺されています。画像をご覧ください。最初の1コマ目では狆が描かれた横に“ちん”と書き添えられ、その左横のマスには“わん”=犬と続きます。横6コマを縦に6段組として画面を36コマで構成したこま絵で、各段の右から左へ横に読んで下の段に移るように配列されています。“ちんわんねこにゃあちう…”とのどかな滑り出しで、早口言葉さながらにテンポ良く進む曲調が人気を得て全国的に流行りますが、上方で刷られたものと江戸(東京)のもので歌詞が異なります。本資料は明治時代に東京で刷られたものです。ここでは“にゃあ”の歌詞が上方では“にゃん”、東京版の“鳩ぽっぽ”が大阪では“鳩ほうほう”となる微妙な差異はともかく、3段目の“小僧がこけて”の歌詞が、関西では“虚無僧が尺八吹いている”に替わるなど、歌詞に採用する対象自体が異なります。これは東西の好みの違い、身近なものが各々異なる結果としか考えられません。
福沢諭吉(1835-1901)の文章に『ちんわんの弁』があり、中勘助(1885-1965)の『銀の匙』にちんわんの回想が書かれています。人形研究家で、江戸から続く人形問屋 吉徳 の第10代当主山田徳兵衛(1896-1983)は、「ちんわんぶし」はものの名前を子どもに教えるためと、幼い子どもの舌がよく回るようにする練習台の役目があったと述べています。このようなこま絵を見ながら大きく口を開けて歌ったのでしょう。どのような楽しい流行歌だったのか、ぜひ聞いてみたいものです。

※本資料には社会的に不適切な表現が含まれていますが、明治時代の社会認識を示す歴史資料と位置付け、そのまま紹介しております。