天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の考古美術饕餮文卣(とうてつもんゆう)

饕餮文卣

饕餮文卣

中国 殷後期 前12世紀
高31.3㎝ 青銅
資料番号:中20

展示中 3-16

中国の青銅器は、今から4000 年前に誕生し、殷周時代(前17世紀~前3世紀)には容器、楽器、武器など用途に応じた器種がたくさん作られました。中でも容器の種類は多く、大きく食器と酒器に分けられます。酒器は酒を貯えるもの(尊)、酒を温めるもの(爵<しゃく>)、盃(觶<し>)などがあり、当時の酒宴の席で賓客をもてなす重要な道具であったことが青銅器に刻まれた銘文で窺い知ることが出来ます。その酒器に飾られた文様の多くが饕餮文(とうてつもん)でした。
饕餮とは中国神話に登場する妖怪です。饕餮の「饕」は財産をむさぼる、「餮」は食物をむさぼるの意味があり、どちらの字もむさぼり食うという意味から、何でも食い尽くす魔獣として描かれています。
『呂氏春秋』などの古典書に描かれた悪神は四凶(しきょう)といわれ、その1匹が人を困らせ悪事を働く饕餮でした。ほかに混沌(こんとん)、窮奇(きゅうき)、梼杌(とうこつ)がおり、ともに平和を乱し、人を食らう伝説上の魔獣たちでしたが、五帝の一人である舜帝に敗れてからは、いずれの魔獣も安泰の世を創る霊獣となります。
青銅器における饕餮は図像表現が、体は牛か羊、羊のように曲がった角、虎の牙、人間のような顔です。全体に妖怪のようなイメージではなく、整然とした模様配置をもちます。魔獣が敗れて聖なる姿に変身した姿なのかもしれません。
掲出の卣(ゆう)は釣り手(提梁)をもつ酒壺です。下膨れの器形で、ずっしりとした安定感を保ちます。口縁部下には夔龍文(きりゅうもん)が巡り、釣り手は器体長辺の中央よりやや上方に取り付けられ、取り付け部に獣面を飾ります。器腹に大きく饕餮文をおき、高台部にはさらに鳥形の夔鳳文(きほうもん) を配しています。器面をくまなく飾った優品といえるでしょう。