天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の考古美術絹絵伏羲女媧図(きぬえふくぎじょかず)

中国 唐時代 7世紀
高さ222cm 絹本着色

新彊ウイグル自治区トルファン古墓出土
資料番号:中1964

展示中 1-0

伏羲(ふくぎ)と女媧(じょか)は、中国の創世神話に登場する神々です。彼らは中国神話における宇宙の設計者、人類の創造者として語られる存在です。
本資料は中国・新彊ウイグル自治区トルファンのアスターナ古墓から出土した絹本着色(けんぽんちゃくしょく)の伏羲女媧図です。伏羲女媧の二神は、一般に上半身が人間、下半身が蛇身という半人半蛇の姿で表されます。本資料でも下半身は蛇尾になっていて、互いに尾を絡みあわせる姿で表現されています。二神の頭上には太陽と思われる天体があり、蛇尾の間には月と考えられる天体も描かれています。太陽と月の周囲には星と考えられる小円が列び、二神の周りにも星々が表現されています。本資料と同様の図像は、トルファン周辺で出土した複数の資料に確認することができ、当時のトルファン地域における伏羲女媧の典型的な図像表現であったようです。出土状況は不明ですが、棺を覆っていた、遺骸の上に被せられていた、畳んで遺骸の側に置かれていた、あるいは墓室頂部に打ちつけられていた、などといわれています。
本資料を詳しく見てみると、この二神はそれぞれが空いた手に別々の道具を持っていることがわかります。現在は剥落して見えにくくなっていますが、向かって右側の伏羲は手に「矩(曲尺)」を、左側の女媧は手に「規(コンパス)」を持つ姿で表されています。この伏羲と女媧が手に持つ規矩(きく)は、正確に円形と方形を描く際に不可欠な道具です。このことは、天円地方(てんえんちほう)の宇宙を設計し調和を維持していく権能を象徴していると考えられ、古代中国の創世神にふさわしい持ち物といえるでしょう。また規矩は天下治平(てんかちへい)の象徴でもあり、伏羲と女媧が優れた古代の帝王であったと考えられていたことにも関係しているのかも知れません。
なお、本資料は1300年以上前の絹絵であるため傷みが激しい部分もあり、その維持管理には細心の注意が必要です。このため現在は資料保存の観点から実物は収蔵庫で大切に保管し、 常設展示室では原寸大のレプリカを展示しています。