天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の考古美術幾何学文アンフォラ(きかがくもんアンフォラ)

ギリシア 前8世紀頃
高さ48.2㎝ 陶器
資料番号:E80

展示中 1-0

紀元前1200年頃に地中海で文化や巨大国家がドミノ倒しのように次々と連鎖的に崩壊して行きました。ギリシアでは華やかなミケーネ文明が突如崩壊したのです。それから古代ギリシアが誕生する前700年頃までは「暗黒時代」と呼ばれています。低迷した経済活動と乏しい文字資料がこの時代をそう呼ばせているのです。確かに低調ではありましたが「暗黒」というのは誤解を招くとし、この時代を「初期鉄器時代」と呼ぶようになってきています。
この時代を特徴付けるのが幾何学文土器です。定規やコンパスを用いて描かれた円文、水平・垂直・斜線、市松文、三角形、菱形といった、幾何学文様が一面を覆い尽くしているのです。あたかも混乱の中で願った秩序と規律を獲得して行ったこの時代の精神が反映しているかのようです。しかし一方で堅苦しさも否めません。
本例は空間恐怖症のように一面に文様が描かれたアンフォラ(双把手壺)です。肩部に2頭の馬と手綱を引く人物、頸部にはメアンダー文(ギリシア雷文)とその下に1列の水鳥文様帯が描かれています。胴部には梯子を横にしたような縦目文と重層する水平線文が施されています。埋め尽くされた幾何学文様の中に人物や動物の文様が中心的に配置されているのが後期幾何学文様式の特徴です。こうした人物や動物文は東の先進地域オリエントからの影響です。
ちょうどオリエントから自由な風が届き始め、堅苦しさから解放されていく時期でもあります。このオリエントの気風が、後のギリシア陶器を生み出して行くのです。