天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の考古美術重列式神獣鏡(じゅうれつしきしんじゅうきょう)

中国 三国時代(呉)3世紀
径13.4cm 青銅
資料番号:087-6

展示中 3-16

多くの鏡の文様は中央の鈕(ちゅう)から放射状に配置されますが、重列式神獣鏡と呼ばれるこの種の鏡では上から下へ一方向に配列されるという特徴があります。主題文様が五段階に列をなしているため、階段式神獣鏡と呼ばれることもあります。
一段目に南極老人、二段目に伯牙と鍾子期、三段目に東王公と西王母、四段目に黄帝と句芒、五段目に天皇大帝といった神仙が表されており、さらに四方には四神が置かれ、他にも様々な怪獣が表現されています。鏡背には様々な偉大な神々や仙人、そして神聖な怪獣が配置されており、この鏡は全体で不老不死の神仙世界を表現しているのでしょう。
実はこの鏡は、ある歴史上の人物の名前が刻まれていることで知られた資料でもあります。鏡の周縁に「将軍孫怡士張平竟□寸」という文字が針刻されているのです。ここで書かれる孫怡(そんい)という人物はあの有名な歴史書『三国志』にも登場する人物なのです。孫怡は赤烏二年(239年)に遼東の公孫氏を救援するため派遣された呉の将軍で、呉の大帝・孫権の皇太子・孫登が死に臨んで、重用すべき国の支えとなる人物として遺言に挙げた12人(陸遜、諸葛瑾、歩騭、朱然、全琮、朱拠、呂岱、吾粲、闞沢、厳畯、張承、孫怡)の一人に名があがっている人物なのです。孫怡については詳しい情報は伝わっていませんが、これらそうそうたる名臣・功臣の中の一人としてあげられていることから、かなりの有力者であったことは間違いないでしょう。実際に『三国志』に登場する人物の持ち物であったと考えると、とても興味深く感じることができます。また、この鏡はちょうど邪馬台国の卑弥呼が魏に朝貢した時期の作品でもあり、その点からも非常に興味深い資料といえるでしょう。