天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の考古美術多彩釉彩画動物文鉢(たさいゆうさいがどうぶつもんばち)

イラン
10~11世紀
口径 19.7㎝
資料番号:37-389

展示中 3-17

黒で輪郭を描き、黄と緑の色釉で鮮やかに彩色した陶器です。描かれているのは馬と、斑点のある動物です。オリエント地域で良く描かれた斑点のある動物と言えば、豹かチーターのどちらかです。どちらもハンティングを得意とする肉食獣として有名です。簡単な見分け方があります。豹の斑点は梅鉢状で真ん中が薄いのに対し、チーターのは中黒なんです。しかもチーターには目から鼻にかけて黒い線が走っています。つまりここに描かれているのはチーターということになります。
チーターが今にも馬に飛びかかろうとしています。古代オリエントでは獰猛(どうもう)な肉食獣が草食獣を襲う図が好まれました。これも同様の動物闘争文でしょう・・、と早とちりしてはいけません。実はチーターは豹と違って、穏和ですぐ人に馴れるのです。本当はかわいい動物で、ペットになっていたかもしれません。ただ惜しむらくは爪が引っ込まない点で、じゃれているつもりでも鋭い爪で飼い主に大怪我をさせてしまうのです。それがために幸か不幸かペットになりそこねました。しかし狩りには打って付けです。
チーターを使った狩りがなされていました。チーターを狩猟するのではなく、逃げるものを追いかける習性を利用して、チーターに獲物を追わせて狩りをするのです。鷹狩りと同じです。ところで、チーターは短距離にはめっぽう強いですが、長距離となるとてんでだめです。持久力がありません。狩りに連れて行こうにも、走って付いて来られないのです。そこで馬に乗せて狩り場まで運んだのです。この絵はチーターが馬を襲っているのではなく、馬に乗せてもらっているのです。そう思うとほほえましい気持ちになります。
イスラームの上流社会では、このチーター狩りは流行っていました。そして実は唐時代の中国にも伝わっているのです。あの恐ろしい則天武后は我が子、我が孫でもお構いなく、気に食わなければ殺しました。その被害者である息子・章懐太子墓には壁画「出猟図」がありますが、そこにも馬の背に乗るチーターが描かれています。この墓は実は、後にその弟である中宗皇帝が改葬したものです。無惨な死を遂げた兄の名誉を回復させて埋葬したのです。そこには太子がチーター狩りをしている姿があります。せめてあの世で楽しんで欲しいという気持ちからでしょうか。